第2回:成田空港でのエキシビションから出発

空総研: シムラさんの想いに、誰が共鳴してくれたのですか?

シムラ氏: このアートプロジェクトは、成田に本社を持つ(株)サウンドハウスとシムラユウスケ、自身の取り扱いギャラリーであるユミコチバアソシエイツが出資してプロジェクトをスタートさせています。
 発端は、国際的なアーティストを招聘するレジデンスを作りたいという話に成田の日帰り天然温泉「大和の湯」が賛同してくれたからです。
 「空港、デザイナーズ温泉、そして豊かな田園風景は、日本を訪れる訪日観光客にとって里山を体感する絶好のロケーションです。加えて海外アーティストが創作活動に励むことができれば、成田は世界基準のアート都市になれる」という想いが伝わったのだと思います。そこから成田に本社を持つ㈱サウンドハウスへと輪が広がりました。㈱サウンドハウスは活動拠点となる物件を提供してくれました。僕自身でリノベーションし、現在はメイン・ギャラリーとして始動しています。

空総研: 成田国際空港におけるエキシビションの位置づけは?

シムラ氏: 2013年12月に「シムラユウスケ Yusuke Shimura × 成田国際空港 NARITA INTERNATIONAL AIRPORTコラボレーション“DREAMING TREE”」が開催されました。僕の中ではふわりの森のキックオフです。
 現在、エキシビションは終了してしまいましたが、今後も第一線で活躍するアーティストたちの作品をターミナル内で発表できるよう空港にはご尽力いただきたいと思います。
 話は変わりますが成田空港を訪れる人の感じるファースト・インパクトって何かご存知ですか?

空総研: いえ、知りません。

シムラ氏: 実は離発着時に飛行機の窓に映る“緑の森”なのです。しかし日本を訪れた外国人の大部分が、東京までのエクスプレスやバス等の交通網が整っていることをよく語っています。最初に感動した緑の森の話は、後にも先にも出てきません。それって少し残念ですよね。

空総研: レジデンスがある場所はどこですか?

シムラ氏: 成田国際空港からJR成田線で2駅の下総松崎(しもうさまんざき)駅がプロジェクトの拠点で、レジデンス・スペースは現在3軒あります。1軒目は駅の改札から徒歩30秒の場所にあります。10年以上前に食堂だった古民家ですが長く使われていませんでした。現在、シムラユウスケとトラフ建築設計事務所でリノベーションの準備を進めています。僕らはここをプロジェクトの主旨を紐解くためのライブラリー・スペースにしようとしています。プロジェクトの世界観に合わせた本を閲覧でき、お茶を飲めるカフェスペース。滞在中のアーティストとの交流も図れる仕組みをつくります。
 2軒目は、そこから徒歩1分程度のメイン・ギャラリー「FAIR」です。僕自身で改装し、宙に浮くような白亜のギャラリー兼レジデンス。アーティストは2Fを制作スタジオにし、1Fで個展を開きます。
 3軒目はスタッフやゲスト、プロジェクトへ参加してくださるボランティアの方々が滞在できる住居スペースを開発する予定です。この他にも空き家が多いのでこれらを活用しつつ、ストアやホテルを加えてアーティスト・ビレッジを形成し、一般観光客の滞在に繋がる場所にしていきたいと考えています。

空総研: 実は、駅に到着した時にびっくりしたんです。東京方面から常磐成田線に乗っているとどんどん景色が変わっていくんですよね。東京から60分離れた場所が過疎状況になっているという認識が都心にいると分からないですし、アートという言葉の持つ美しい響きだけを切り取ってしまうと「ここで?」と言いたくなりました。

シムラ氏: この地域は農業の為の調整区域の背景を持つので開発が進んでおらず「(可能性が)無い」とお考えかもしれません。しかし、こんなに自然が保全されている場所で都心からも空港からもアクセスできるのは、「最高に(可能性が)有る場所だ」と考えています。
 この豊かな自然環境と古民家及び工場跡地などの施設を活かしてアーティスト・スタジオを作れば、ニューヨークのチェルシーやダンボのような新しいメディアが生まれると感じています。なぜならニューヨークも、ロンドンも、ドイツも、こういうロケーションから新しいアーティスト群が生まれ、ムーブメントを起こしてきたからです。まさに今、僕がアーティストを招聘して新しい動きをはじめている。それこそが、その証明です。
 成田は、東京からは距離がありますが世界の玄関口の一つです。確かに条例や規制があり、新規開発は望めず、時代の流れが止まったような土地となり、人も離れていって過疎が起きました。それでも昔の姿のまま新しくしていかなければなりません。成田市も調整区域の規制を一部緩和し、自然景観を活かした開発構想を模索しています。僕らのアートの森も想いは同じベクトルを向いています。自然と共存しながら再生していく。ここなら実現できると思います。

空総研: 本当に、下総松崎駅が成田国際空港の隣の駅だとは想像がつきませんね。

シムラ氏: 「国際空港」「東京」「日本」「JAPAN」。これらのイメージから入国した方は驚くかもしれないですね。駅は、ジブリの映画に出てくるような木造の駅舎で近未来的なイメージとはかけ離れていますし(笑)。
 しかし、僕らは、このロケーションを2020年のオリンピック開催前に文化創造都市、アートエリアとして、誰もがアプローチできる場所にしたいと考えています。
 空港からの距離はトランジットで滞在可能な4時間圏内ですし、日本の原風景と最新アート作品が楽しめ、温泉にも入れる。国際的なアーティストが集い、スポーツと芸術性も融合する。それも成田のエアポート構想に入れるべきだと考えています。それこそ羽田にはない、成田が持つ魅力の一つになると常に感じているので。

【目次】
第1回
ふわりの森って何ですか?
第2回
成田空港でのエキシビションから出発
第3回
閉校となる母校を記憶の美術館に
第4回
“ふわりの森”アートプロジェクトが秘める可能性
第5回
アーティスト・シムラユウスケの空港観
第6回
これからの空港に必要なのは、地域との“共生”
第7回
ふわりの森の「NARITA」には「ART」があって、アートの中に「I(人)」がいる
【プロフィール】
シムラユウスケ氏
1981年生まれ。写真、ドローイング、プロジェクトワークなど様々な視点から自身の表現の根源になった、ユーリイガガーリンの「地球は青かった」の言葉から「人の夢とは何か」を作品化し、国内外で作品を発表。東京、ニューヨークを拠点に中東、北欧、アジアでの個展を展開し、各国でコレクションされている。2011年東日本大震災以降、自身の出身地でもあり被災した成田国際空港を包み込むランドアート“ふわりの森”のプロジェクト・ディレクターとしても活動。
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